臨床実習レポート

作業療法士臨床実習レポート紹介

昼間部2年生・夜間部3年生で実施する臨床実習Ⅰ(3週間)の症例報告を紹介します。

ぜひ、参考にしてください!

 

①はじめに

変形性股関節症により人工股関節置換術(以下THA)を行った70歳代女性に対して評価を行い、地域社会への参加を目標に治療プログラムの立案を行う機会を頂いたので、ここに報告する。

 

②一般情報(情報源カルテ)

1.年齢:70歳代

2.性別:女性

3.家族構成:夫と二人暮らし、娘2人

4.キーパーソン:夫

5.趣味:リハビリ体操、盆踊り

6.Hope:これからもリハビリ体操に参加したい、夏に計画している旅行に行きたい

7.住環境:2階建てのテラスハウス、ケースの部屋は1階にあり、寝具はベッドを使用、日中は和室で過ごし座椅子・こたつを使用、階段の段差は15cm程度、階段に手すり有り、浴槽は置き型でL字バー設置済み、浴室内にシャワーチェアは無し

8.周辺環境:平坦な道が多くスーパーまでは徒歩8分程度、シルバーカーを利用

 

③医学的情報(情報源カルテ)

1.診断名:右側変形性股関節症

2.現病歴:手術日より6か月前に右股関節痛が出現し、変形性股関節症と診断され、THAを行うため入院する

3.画像所見:Crowe分類Ⅰ型、THAにより術側約1cm脚延長

 

④他部門からの情報

1.Dr:術後早期より関節の可動や術側への荷重は可能、術後3週間まではしゃがみこみ・正座・背伸び・自転車乗車は禁忌

2.PT:術前の2steptestは183cm(2step値1.188)、10m歩行は10秒で転倒リスクは低い

 

⑤OTS評価

1.第一印象:年齢に対して若く見え表情も明るく親しみやすい印象を受ける、語調は明瞭で多弁、せっかちで動きが速い

2.姿勢(片脚立位):右脚立脚(右骨盤下制、右股関節外転)、左脚立脚(右骨盤下制、右股関節外転)、デュシャンヌ徴候(+)

3.基本動作

(1)歩行(左杖使用):右着床初期「IC」(骨盤右下制、体幹右側屈)、右立脚中期「MSt」(骨盤右下制、体幹右側屈、右股関節外転・屈曲)、右遊脚初期「ISw」(股関節屈曲)、右遊脚中期「ISt」(骨盤の右下制・左偏位、左股関節内転)

(2)昇降:昇り動作(左手に杖、右手で手すりをつかまりながら、杖・左脚・右脚の順で階段を昇る)、降り動作(左手に杖、右手で手すりをつかまりながら、杖・右脚・左脚の順で降りていた、ひと動作ずつ丁寧に行っていた)

(3)床上動作:床への着座(立位からプラットフォームに手をつき上肢で体幹を支えながら、右股関節を外転させ、左膝立ち位となる、臀部を床につき、左股関節を内旋させ割座を経由して長座位になる)、床からの立ち上がり(長座位から左股関節を内旋・内転、膝関節を屈曲させ、割座を経由し左下肢のみ正座の姿勢になる、プラットフォームに手をつけ上体を起こし左膝立ち位から立位姿勢になる)、床から物を拾う動作(右下肢を後方に引き、股関節中間位、膝関節を屈曲させ、体幹を前傾させて物を拾う)、靴下着衣動作(長座位にて行う、骨盤を後傾し右股関節を屈曲・外旋・外転・股関節を屈曲し、下肢を近位に移動させる、その際自動での屈曲が困難なため、上肢を利用し下肢を近位に近づけて靴下を履く)

4.身体機能面

(1)疼痛:安静時痛(術後1日で創部に痛み(+)、術後4日には痛み(-)、他動運動:術前には股関節屈曲90度以上で痛み(+)、術後は創部に張りや股関節外転時大腿前部違和感を感じるが痛み(-)、圧痛「NRS」:大腿前面(術後1日7/10、術後4日1/10)、大腿外側面(術後1日7/10、術後4日0/10)、大腿内側面(術後1日5/10、術後4日0/10)、臀部外側面(術後1日4/10、術後4日0/10)

(2)熱感・腫脹:熱感(術後2日より触診(+)、術後3日より触診・自覚症状(+)、腫脹(術後2日より触診(+)、術後3日より触診・自覚症状(+)

(3)形態計測(右大腿周径):膝関節直上(術後1日33.8cm、術後3日33.4cm)、膝関節+15(術後1日46.5cm、術後3日47.5cm)

(4)柔軟性:EIytest(術前術後共に陽性)、臀部間距離「HBD」(術前右15cm、左11cm)、(術後右12.5cm、左14.5cm)、開排値(術前右19.2cm、左20cm)、(術後右20cm、左14cm)

(5)関節可動域検査(特記事項のみ記載):SLR「自動運動」(術前左0~40度、術後左0~25度)、股関節伸展「自動運動」(術後左0~5度、右0度)、股関節内転「自動運動」(術後左0~15度、右0~5度)、股関節外転「自動運動」(術後左0~30度、右0~20度)

(6)徒手筋力検査:術前(股関節屈曲・外転外旋屈曲・膝関節屈曲のみ4、他は5)、術後(創部への負担を考慮してMMT3以下を検査し、すべての項目で3)

(7)バランス検査:片脚立位保持(術後右脚立脚6秒、左脚立脚7秒)、立位左右荷重比(術前右19kg、左34kg、術後右21kg、左30kg)

(8)歩行能力評価:2step値(術前1.118、術後0.83)、10m歩行(術前10秒、術後13.42秒)

(9)日本整形外科学会股関節疾患評価質問票「JHEQ」(特記事項のみ):右側靴下を履くことが困難である(そう思う)、右側爪切り動作が困難だと思う(とてもそう思う)、股関節の病気のために地域の行事や近所付き合いがうまくいかないことがある(そう思う)

 

⑥問題点の整理(ICF分類)

1.心身機能:(Negative)右大腿部の浮腫・熱感 (Positive)感覚機能正常

2.身体構造:(Negative)右大腿部前面の圧痛、右臀部筋力の低下 (Positive)認知機能問題なし、コミュニケーション良好

3.活動:(Negative)右脚の爪切り動作困難、靴下着脱動作への不安、長時間歩行困難、転倒リスクあり、歩行での股関節伸展・内転ROM制限 (Positive)杖歩行自立、セルフケア自立、床上動作可能、杖での階段昇降自立

4.参加:(Negative)リハビリ体操・盆踊り参加への不安、旅行での歩行不安 (Positive)    リハビリ体操・盆踊り参加への意欲あり、旅行への期待あり

5.環境因子:(Negative)置き型式浴槽、和室・座椅子での生活、シャワーチェア未設置 (Positive)自宅周辺は平坦な道が多い、スーパーまで徒歩10分以内、浴槽内・階段に手すりあり

 

⑦考察

本症例は、右変形性股関節症によりTHAを実施した70歳代の女性である。術前は動作開始時の股関節痛や長時間の歩行困難がみられた。術前から座椅子・こたつを利用した床上での生活を送っており、床上動作の回数が多い。また、靴下の着脱や爪切り動作では、長座位姿勢で行っており、脱臼の危険性がある股関節屈曲・内転・内旋姿勢がみられた。

OTS評価において、身体機能面では術後2日目から炎症症状がみられた。これは、杖歩行自立によって活動量が増加したことが原因と考える。炎症症状の管理とし、長時間の活動は控え、休息をこまめに入れること、下肢の挙上を行うことが必要であると考える。

基本姿勢評価では、右脚支持での片脚立位において、デュシャンヌ徴候がみられた。右MMT3であることから、中殿筋の筋力低下が考えられる。中殿筋は、歩行や靴下着脱動作での開排動作に関わっているため、筋力向上が必要と考える。

基本動作では、歩行において、①右MStでの右骨盤の下制、体幹右側屈、右股関節外転②右ISwで股関節屈曲③右IStで骨盤の右下制・左偏位、左股関節内転がみられた。①~③の原因として、①は右股関節内転0~5度のROM制限によるものと考える。大腿筋膜張筋の過緊張による筋の伸張性の低下で、股関節内転制限がおこり、右股関節外転し右骨盤の下制が起こったと考えられる。また、術前から右股関節へ荷重がかからないよう、股関節を外転して歩行していたことも原因の1つと考える。②の原因は、ROM検査での股関節伸展制限が見られたことやElytestが陽性なことから、大腿直筋と腸腰筋の筋短縮と過緊張による伸展制限が起こったことと考える。③は、中殿筋低下によるデュシャン歩行が起こったものと考える。

片脚立位の保持時間は、転倒のリスクのカットオフ値を下回っており、転倒のリスクが高いと言える。転倒のリスクを考慮し、シャワーチェアの導入や居間での椅子の使用を検討する必要があると考える。

ADL動作では、右の靴下着脱動作の困難があり、これは股関節の後傾や開排動作の制限が原因と考える。腸腰筋の筋力低下により、股関節の屈曲保持が困難で、骨盤が後傾となり上肢リーチの制限が起こる。また、THAによる脚延長で、大腿筋膜張筋、大殿筋、中殿筋の短縮と過緊張により、筋活動が弱く、開排動作が困難になったと考える。THA患者では、靴下着脱や爪切り動作の自立は、患者満足度に関係する動作である。そのため、無理のないADL動作の獲得が必要になる。

以上の評価結果より、ケースの課題として①炎症症状の管理②下肢筋力の低下③筋の過緊張緩和④転倒リスク⑤自宅におけるADL動作の困難性をあげた。

ケースのHopeは、「リハビリ体操への参加」「旅行へ行けるようになること」である。リハビリ体操は集団で軽めの体操を行っていた。旅行に関しては、以前にも行ったことがある場所で、友人と綺麗な景色を見ることを楽しみにしていた。しかし、ケースは地域行事参加への不安や、旅行中の舗装されていない道での歩行ができるか不安を抱いている。これらの不安を解消するために、問題点を挙げた①~⑤を改善させ、まずは自宅での安全なADL動作獲得と、屋外での安全な歩行を獲得し、それにより活動の拡大が図れ、社会参加に繋がると考える。

 

⑧短期目標、長期目標設定

1.長期目標(12W):リハビリ体操への復帰、旅行へ行けるようになる

2.中期目標(3W):自宅での安全な床上動作の獲得、買い物を徒歩で行ける

3.短期目標(4day):脱臼肢位を避けた安全な動作の獲得、下肢筋力の向上、関節可動域の拡大、椅子・シャワーチェア導入の検討

 

⑨治療プログラム

1.術後3週間まで:ROMエクササイズ、脱臼肢位を避ける動作練習、術側への荷重練習、ADL指導、ホームエクササイズの実施

2.3週間以降:ストレッチ、筋力トレーニング、歩行周期にあわせた荷重訓練、バランストレーニング、ADL指導、ホームエクササイズの実施

 

 

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